(社説余滴)韓国が断つべき本当の悪弊 箱田哲也

 あの人も、この人も。

 韓国でいま、李明博(イミョンバク)、朴槿恵(パククネ)・両保守政権の元高官らが次々に摘発されている。

 違法行為を見逃すわけにはいくまい。だが、時の権力の意をくんだ韓国検察の政治捜査は有名で、裁判で無罪になるケースも少なくない。

 朴氏に代わった文在寅(ムンジェイン)大統領ログイン前の続きは就任演説で国民統合の実現を約束したが、少なくとも今のところ逆の方向に向かっているように映る。積もり積もった弊害の清算だ、というが露骨にすぎないか。

 そんな流れのあおりを食ってか、朴政権の数少ない実績である日韓両政府の慰安婦合意が、韓国で調査された。

 三十数ページにおよぶ報告書を読むと「秘密協議」「非公開の合意」などと怪しげな文言が並ぶものの、すでに明らかになっていた中身ばかりで、驚くべき新事実はなかった。

 日本政府は表向きは反発を装ったが、交渉経緯に詳しい外務省幹部は「穏便な内容で安堵(あんど)した」と語る。

 報告書は、さも日本側に有利な中身で落ち着いたかのような評価をしたが、必ずしもそうとは言えない。

 日韓間で合意文が固まった後、ある文言をめぐって発表直前まで日本側は修正要求をしたが、韓国側は徹底抗戦で拒んだ。一字一句、こんなやりとりを10カ月間繰り返した結果が、2年前のきのう発表された日韓合意である。

 前政権がやったことはすべて悪だと短絡的に決めつけるのなら、それこそ韓国政治の悪弊である報復の連鎖は、いつまでも断ち切れない。

 日本との関係のみならず、いま韓国は、大きな試練に直面している。北朝鮮問題は解決の糸口すら見つからない。米中という大国のはざまで、どんな立ち位置をとるのか、なかなか定まらない。

 社会構造の欠陥に国内の不満や不安は高まる。少子高齢化。若年失業率の高さ……。現在の高支持率に浮かれてばかりはいられない現実が文政権を待ち受ける。

 韓国社会のことを、あらゆるものが権力の中心へ集まろうとする上昇志向が強い渦巻き型だ、と分析した米国の元外交官グレゴリー・ヘンダーソンがこう記している。

 「内憂外患に際して露呈する政治的凝集力の欠如は、朝鮮の歴史を通じて長年にわたり伝染病のごとく繰り返された」(「朝鮮の政治社会」)

 半世紀前に書かれたこんな指摘の色あせる日が、早く来ることを願う。

 (はこだてつや 国際社説担当)
2017年12月29日 朝日
https://web.archive.org/web/20171228231651/https://www.asahi.com/articles/DA3S13294834.html