挺対協の過大評価? — 2018年7月31日

挺対協の過大評価?

挺対協は過大評価されていないか
澤田克己・外信部長

2018年7月28日 毎日

元従軍慰安婦を象徴する「平和の碑」。ソウルの日本大使館前に設置された2011年12月14日、筆者が撮影した
元従軍慰安婦を象徴する「平和の碑」。ソウルの日本大使館前に設置された2011年12月14日、筆者が撮影した
 韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)という団体があります。慰安婦問題で日本批判の急先鋒(せんぽう)となっている団体で、ソウルの日本大使館前に少女像を建てたことでも有名です。韓国世論に絶大な影響を与えるというイメージが強いのですが、本当にそうでしょうか。この団体の影響力は過大評価されているのかもしれない。そんな事象を見つけてしまいました。

 私は3年前までソウル特派員をしていました。ソウルで勤務したのは、1990年代末から通算で2回計8年半になります。2回目の勤務を終えて帰国した私が違和感を感じたのは、日本での慰安婦問題に対する関心の高さです。韓国世論が関心を持っていないとまでは言いませんが、関心の度合いは日本よりずっと低いというのが率直な印象です。

 韓国と日本を冷静に観察している人々の間では珍しくない感想なのですが、あくまでも体感です。しかも韓国の政府関係者や記者は「韓国世論の関心は日本より弱い」と言われると面白くないようで、私が意見交換の場などで指摘すると必死に反論してきます。たいていは感情論での反発にすぎないのですが、こちらも具体的な根拠が少なくて困っていました。

 そんなことを考えていた今年2月のことです。私は、挺対協が青瓦台(大統領府)のサイトに「国民請願」を出したという韓国紙・中央日報の記事を読みました(日本語版はこちら)。請願のタイトルは「文在寅(ムン・ジェイン)政権は、2015年韓日合意に対する政府の基本処理方針に従って和解癒やし財団を一日も早く解散し、10億円を返還しなければなりません」というものでした。

 賛同する電子署名が30日以内に20万集まれば、政府が何らかの返答をする仕組みだそうです。私が記事を読んだのは、請願が出てから3日目の夕方でした。関心を持った私は、青瓦台のサイトをチェックして驚きました。それまでに集まっていた署名が826人だけだったからです。はたして30日間で何人まで数字が伸びるのだろうか。私は次の日から毎朝、署名の数をチェックするようになりました。

 挺対協はその後、別の団体と組織統合して「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)」と名称を変更しました。ただ請願を出した当時はまだ挺対協という名称でしたので、本稿では「挺対協」とします。

署名20万人超えは1年弱で50本
 国民請願というのは、文在寅政権が昨年8月に始めた試みです。韓国国民なら誰でも請願を提出することができ、青瓦台サイト上で電子署名集めが始まります。米ホワイトハウスが運用する類似の仕組みを参考にしたものですが、必要な署名数を10万人とするホワイトハウスより高めのハードルである20万人が必要とされます。青瓦台の担当者によると、米国では専用サイトに実名で登録しないと署名できないが、青瓦台サイトは外部のSNSアカウントを利用して署名する仕組みだからだそうです。そこまでする人が多いとは思わないものの、1人が複数アカウントを使って署名することも不可能ではない。だから必要な署名数を増やしたといいます。組織的な動員とみられる大量署名が短時間に集中することもあるので、その時には不正なアクセスがないか解析するということでした。

 開設から1年弱で、署名20万人を超えた請願は約50本。「盗撮に使われるカメラの販売禁止と盗撮に対する罰則強化」を求める請願が約21万人、「国会議員の給与を最低賃金水準に」が約27万人、「未成年者への性的暴行に対する罰則を強化し、終身刑に」が約23万人といった具合です。平昌冬季五輪のスピードスケート女子団体追い抜き(パシュート)でチームメートを置き去りにしたと非難された2人の選手の国家代表資格剥奪を求める請願への署名は61万人を超えました。

挺対協の請願に集まった署名は1919人
 さて挺対協の請願への署名はどう推移したでしょうか。5日目の朝にチェックすると、前日朝からの増加数は140人でした。その後、3月1日と2日に前日より200人超の増加を記録しましたが、24時間ごとの増加数が3ケタになったのは、その3回だけ。4日目までに800人を超えていますから最初の数日もそれなりの勢いはあったようですが、それにしても賛同が殺到したとは言えないでしょう。

 挺対協は毎週水曜日に日本大使館前で集会を開いています。署名受け付けの最終日を1週間後に控えた3月14日の集会では、請願の内容を紹介した後に「20万人集まれば、青瓦台が私たちの請願に応えてくれます。多くの人たちの参加をお願いします。21日まで1週間あります。その時までに20万人集まらなかったら終わりです。ここにいる多くの方たちが参加してくださるようお願いします」と呼びかけていました。ただ翌日朝にチェックすると、前日からの増加数は4人だけ。集会への参加者も100人弱でしたが、それにしても反応が鈍いのではないかと首をひねらざるをえませんでした。

 結局、署名は1919人で終わりました。それまでも集会への参加者数を見ていて挺対協の動員力低下を感じてはいましたが、この数字にはさすがに驚きました。私はその後、日韓両国の外交官や研究者に請願の説明をして「何人集まったと思うか」と聞くことを繰り返しているのですが、返ってくるのは自信なげに「5万人? 10万人?」という声が大部分。1万人以下だろうと考える人は皆無でした。

 これを見ると、私たちは現時点での挺対協の影響力を過大評価しているのかもしれません。挺対協は1990年代、韓国世論に対する絶大な影響力を発揮しました。ただ、よく考えてみると2000年代に入って以降、慰安婦問題はしばらく重要な外交問題とされずにいました。再び大きくクローズアップされるようになったのは、韓国の憲法裁判所が慰安婦問題解決のための外交努力を韓国政府が尽くしていないのは「違憲」だと判断し、挺対協が日本大使館前に少女像を建てた2011年からです。少女像を建てることで状況を大きく動かしたとは言えますが、その前の10年余りは、挺対協が熱心に活動を続ける一方で韓国世論の関心はいまひとつだったのです。そう考えると、請願への署名数がきわめて少なかったことも不思議とは言えないのかもしれません。

騒ぎになれば感情を刺激する構図は変わらず
 それでも請願の結果に驚いた私は、挺対協の尹美香(ユン・ミヒャン)常任代表(現在は正義連理事長)に「なぜ署名がこんなに少ないのか」と電話で疑問をぶつけてみました。返ってきた答えは「(請願を出したのが)平昌五輪の期間中だったので、静かにやろうということになった。請願を出したと報道されればいいということで、署名集めのための広報には力を入れなかった。水曜集会でも経過報告をしたくらい。北朝鮮の核問題もあったし」というものでした。この説明をどう受け止めるかは、人それぞれでしょう。

 それを聞いて私は、昨年夏に20代後半の韓国人記者と交わした会話を思い出しました。会社派遣の研修で日本に滞在していた彼は、ビアガーデンでジョッキを傾けながら「韓国の若者で慰安婦問題に関心を持っている人はとても少ない。だから時間が経てば外交的な問題ではなくなるはず」と言ったのです。酒席で出た本音なのでしょうが、日本に関心を持っているはずの記者がこの程度の認識というのは危うい。私は「韓国で一般的に関心を持たれていないのは確かだけれど、だから外交問題にならないということにはならないよ」と返しました。

 慰安婦問題はやはり、いったん騒ぎになれば感情を刺激しやすいからです。特に韓国では「いたいけな少女」が犠牲になったというイメージが定着しています。こうしたイメージが国民感情を強く刺激するのは、普遍的な現象です。

 この構図自体は今も変わりません。慰安婦問題にはこれからも慎重なアプローチが必要で、そうした姿勢は特に両国の政治家や政府関係者に求められます。その際に韓国世論の実像からかけ離れたイメージを抱いていては、正確な判断をすることができません。日本側が韓国世論の実情を誤解して過剰反応することで状況がさらに悪化する負のスパイラルに陥ってしまう危険すらあります。そんなことにならないよう、韓国の“平熱”がどのようなものかきちんと知っておくことが大切です。

https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20180727/pol/00m/010/004000d

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「韓日慰安婦合意、政府の明確な立場を要求」…挺身隊対策協が青瓦台に請願

2018年02月20日08時43分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]

韓国挺身隊問題対策協議会(挺身隊対策協)と「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶財団」が、朴槿恵(パク・クネ)政権当時の2015年韓日慰安婦合意について最近検証作業をした文在寅(ムン・ジェイン)政権に対し、10億円の処理方向などに関する政府の明確な立場表明を要求した。

挺身隊対策協と正義記憶財団は「外交論争により被害者と国民が政府に対して不信感を抱かないよう、韓国政府が明確な立場を表明して後続措置を取らなければいけない」とし、青瓦台国民請願を始めると19日、明らかにした。

これに先立ち16日、西村康稔官房副長官はあるテレビ番組で「文在寅(ムン・ジェイン)大統領が韓日首脳会談で慰安婦合意について『合意は破棄しない、再交渉もしない、和解・癒やし財団も解散しない、日本が拠出をした10億円も返還しない』と明言した」と述べた。

これに対し青瓦台(チョンワデ、大統領府)は17日、「事実と合わなかったり、お互い立場が違ってニュアンスの差がある」とし「我々は慰安婦合意でこの問題が解決されるのではないという政府の立場を説明したし、慰安婦被害者の名誉と尊厳、心の傷を癒やすために共に努力しなければいけないという点を明確にした」と釈明した。

昨年7月に康京和(カン・ギョンファ)外交部長官の直属で設置された韓日慰安婦合意検討タスクフォース(TF、作業部会)は5カ月間にわたり検証作業をした結果、韓日慰安婦合意について政府は再交渉を推進しないことにしたと処理方向を明らかにした。

また、日本政府が被害者支援のための和解・癒やし財団に拠出した10億円は韓国政府の予算で充当するものの、基金の処理および和解・癒やし財団の今後の運営については後続措置を用意すると発表した。

https://web.archive.org/web/20180730213838/http://japanese.joins.com/article/802/238802.html