和解財団解散で米国「両政府に連携して対処するよう促す声明」 — 2018年11月25日

和解財団解散で米国「両政府に連携して対処するよう促す声明」

米国
日韓に連携促す 慰安婦財団の解散で
毎日新聞2018年11月24日 18時48分(最終更新 11月24日 18時48分)

 米国務省の報道担当者は23日、韓国政府が2015年12月の従軍慰安婦問題に関する日韓合意に基づき設立された「和解・癒やし財団」の解散と事業終了を発表したことについて、日韓両政府に連携して対処するよう促す声明を発表した。

 声明では「機微に関わる歴史的な問題に、癒やしと和解を促進し、相互の信頼を高めるような方法で取り組むよう全ての当事者に働き掛けている」と強調した。

 トランプ政権は北朝鮮の完全非核化を目指して日米韓3カ国の結束を重視している。日韓連携を促す背景には、同盟国間の亀裂が非核化交渉に悪影響を与えかねないとの懸念があるとみられる。

 慰安婦問題を巡っては、オバマ前政権が北朝鮮をにらんだ安全保障上の必要性から日韓に関係改善を促していた。当時のケリー国務長官は日韓合意を受け「日韓が問題を最終的かつ不可逆的に解決することを明示した」との談話を発表し、歓迎する意向を示していた。(共同)

https://mainichi.jp/articles/20181125/k00/00m/030/032000c

朝日 元徴用工判決を考える 竹内康人、太田修、奥薗秀樹 — 2018年11月24日

朝日 元徴用工判決を考える 竹内康人、太田修、奥薗秀樹

(耕論)元徴用工判決を考える 竹内康人さん、太田修さん、奥薗秀樹さん
2018年11月23日05時00分

韓国大法院(最高裁)が日本企業に対し、元徴用工への損害賠償を命じた。日本政府は「解決済みだ」と判決を批判する。どう考えればいいのか、専門家に聞いた。

 ■動員の実態まずみること 竹内康人さん(近代史研究家)

 朝鮮人の労務動員について安倍晋三首相は国会で「募集」「官斡旋(あっせん)」「徴用」があログイン前の続きるが、韓国大法院判決の原告は、募集に応じたものであり、徴用工ではなく「旧朝鮮半島出身労働者」の問題、と説明しました。強制ではなく、自らの意思で働いたとしたいのでしょうが、それは事実に反します。

 日中戦争が始まると、日本政府は1939年、総力戦をめざし炭鉱や工場などへの労務動員計画を立てました。日本の植民地だった朝鮮からは、同年から政府の承認による募集で、42年からは朝鮮総督府が積極的に関与する官斡旋で、44年からは国民徴用令を発動し、動員がなされました。

 必要なのは、動員の実態をみることです。国策による動員であり、割り当て人員を確保するため、初期の段階から行政や警察が関与しました。官斡旋では「掠奪(りゃくだつ)的拉致」と記す報告もあり、執拗(しつよう)な人集めが行われたのです。

 今回の原告のように、2年間訓練を受ければ技術を習得できるなどと甘い言葉で誘われた人もいます。植民地での皇民化政策は、日本の戦時動員に積極的に応じるよう、他民族の内面を操りました。その強制性を理解すべきです。

 さらに日本政府が特定の鉱山や工場を軍需会社に指定し、そこの労働者を徴用扱いする「現員徴用」というやり方もありました。旧日本製鉄も指定されており、原告も現員徴用されました。募集や官斡旋で動員されても、職場から離脱できず、さらに任期を延長された人もいます。

 旧内務省の「労務動員関係朝鮮人移住状況調」などによれば、朝鮮からの動員は約80万人です。動員先は、炭鉱など危険な現場が多かったのです。逃亡を防ぐために賃金の多くは強制貯金されました。軍隊的な管理が導入され、労務担当による暴行もありました。警察や、協和会という統制組織によって監視され、逃げれば指名手配され、見つかれば逮捕されました。募集という言葉からイメージされる自由な労働者では、決してありません。

 こうしたことを考えれば、いずれも戦争遂行のための「強制動員」と呼ぶべきです。安倍首相の説明は、これまでの歴史研究で明らかになった事実を無視し、歴史をゆがめるものです。

 韓国では日本企業を相手取った同様の裁判があります。大法院で「強制動員慰謝料請求権」が確定したことを踏まえ、日本政府と企業は、韓国側と協力して基金をつくるなど、包括的な解決に踏み出すべきです。

 不法な植民地支配によって労働を強制したことを認め、真相を明らかにし、被害者の尊厳を回復し、次世代に真実を伝えることが大切です。(聞き手・桜井泉)

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 たけうちやすと 1957年生まれ。高校で歴史を教えてきた。著書に「調査・朝鮮人強制労働」(炭鉱編など全4巻)など。

 ■人権の視点は国際的潮流 太田修さん(同志社大学教授)

 日韓請求権協定は、植民地支配の責任を不問に付したサンフランシスコ講和条約の枠組みのもと、請求権問題を経済協力で政治的に処理した条約です。これに対し、戦時に重大な人権侵害を受けた被害者が個人として直接救済を求める動きが、1990年代以降に出てきました。

 韓国の強制動員被害者(元徴用工)らが日本で提訴した裁判は「請求権協定で解決済み」との主張に阻まれ、企業に対する賠償請求は2007年までに最高裁で退けられました。協定の交渉過程を検証しようと外交文書開示を求める訴訟が韓国で起こされ、05年以降、韓国側3万6千ページ、日本側約6万ページが公開されました。文書を分析した結果、私は日本側の姿勢には「過去の克服」の観点から問題が三つあったと考えています。

 1910年の日本による韓国併合に始まる植民地支配は「適法かつ正当だった」との前提で臨み、被害を与えた責任を認めなかったこと。過去への償いを回避するため、請求権問題を経済協力で処理したこと。植民地支配や戦争で人権を侵害された被害者の声を受け止めず、条約によって「解決」としたことです。

 請求権協定が「完全かつ最終的な解決」をうたったのも、冷戦下で日韓ともに経済開発優先だったことが背景にあります。強制動員被害者の声は韓国の軍事独裁政権に抑え込まれ、「過去の克服」はなされなかったのです。

 ただ「解決済み」論を基本としていた韓国側は2005年、当時の盧武鉉(ノムヒョン)政権が日韓会談文書の公開を受けて「日本政府や軍が関与した反人道的不法行為は、請求権協定で解決したとはみなせない」と表明。元「慰安婦」やサハリン残留韓国人、在韓被爆者を協定の対象外としたのです。強制動員被害者(元徴用工)をめぐっては12年、大法院判決が「日本の判決は強制動員を不法とみる韓国憲法と衝突する」として日本の確定判決の効力を否定。今回の判決もその延長上にあります。

 韓国政府や司法の変化は、植民地支配や侵略戦争の責任を問う考え方に加え、被害者の人権や尊厳回復を求める声の高まりを受けたものです。

 国家間の条約で個人の請求権を一方的に消滅させることはできないとして、人権、人道の観点で強制動員問題の解決をめざす取り組みは国際的潮流でもあります。ナチス統治下の強制労働被害者に補償するためドイツ政府と企業が財団を設けました。日本企業も、鹿島や西松建設などが中国人強制連行被害者と和解して基金がつくられています。

 「解決済み」と言い続けても問題は解決しません。日本政府や企業は個人の被害に向き合い、国際基準にかなった過去の克服をめざす姿勢が求められていると思います。(聞き手 編集委員・北野隆一)

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 おおたおさむ 1963年生まれ。専門は朝鮮現代史・現代日朝関係史。主著に「〈新装新版〉日韓交渉―請求権問題の研究」。

 ■日韓関係の枠組み壊すな 奥薗秀樹さん(静岡県立大学准教授)

 大法院が賠償請求を認めたこと自体は、2012年5月に高裁に差し戻した経緯からしても想定の範囲内でした。ただ、判決を詳しく読むと、韓国司法が一歩踏み出したという印象を受けます。

 差し戻し判決とその後のソウル高裁判決は非常に慎重な言い方でした。1965年の請求権協定が、植民地支配の不法性について日韓双方の見解が平行線のまま結ばれた中で、植民地支配と直結した不法行為である強制動員の損害賠償を求める権利が消滅したとは考えにくいという論理です。だが今回は、日本の植民地支配の不法性を前提とした日本企業の反人道的不法行為に対する慰謝料請求権は、請求権協定の対象にならないと明確に述べている。この論理だとあらゆることが慰謝料請求の対象になりかねません。

 大法院が一歩踏み出した背景の一つには、文在寅(ムンジェイン)政権が前大統領の弾劾(だんがい)と罷免(ひめん)という特異な過程を経て成立し、「積弊清算」、山積した過去の弊害の清算を看板に掲げていることがあります。政治の流れの中での判決となった側面があることは否定できません。

 しかし、より大きいのは、韓国の司法の特性です。朴正熙(パクチョンヒ)など軍出身の大統領の下では司法が統治の道具として使われ、国民から全く信用されませんでした。87年の民主化後、司法は過去の反省から、政府にできない社会正義を実現する砦(とりで)となるという強い使命感を抱くようになります。世論に左右されやすく「憲法の上に国民情緒法がある」と揶揄(やゆ)されるのも、国民の側に立つ意識が強いためです。今回の判決にも、その使命感が色濃く出ていると思います。

 日韓国交正常化による「65年体制」は、韓国併合が合法か違法かは平行線のまま、現実的対応をしました。判決はそのあいまいさを放置せず、正すことを求めているようにも映るだけに、65年体制を崩しかねないリスクを伴います。

 とはいえ、現時点までの日本政府の対応は少し行きすぎに見えます。「完全かつ最終的に解決済み」の一点ばりでは韓国世論を刺激し、韓国政府の選択肢を狭めてしまう。日本の立場は、請求権協定で個人請求権は消滅しないが、外交保護権を互いに放棄している以上、個人の請求に国として対応できないというものです。それをきちんと説明し、理解を求めるべきでしょう。

 韓国の李洛淵(イナギョン)首相は「諸般の要素を総合的に考慮して」対処すると表明しました。対日関係を破綻(はたん)させないという意思の表れだと思います。日本は騒ぎすぎず、韓国政府の出方を待つべきです。

 65年体制では、摩擦はあったにせよ、得られた成果も大きかった。その枠組みを壊すべきではありません。両国首脳の政治的決断と国内を説得する指導力が求められます。(聞き手 編集委員・尾沢智史)

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 おくぞのひでき 1964年生まれ。専門は現代韓国政治・外交。NHK記者、朝日新聞記者、韓国・東西大学助教授を経て現職。

https://digital.asahi.com/articles/DA3S13781225.html?rm=150