大沼保昭 サハリンの朝鮮人「日本人と同じく帝国臣民としてサハリンに渡った」 — 2018年3月29日

大沼保昭 サハリンの朝鮮人「日本人と同じく帝国臣民としてサハリンに渡った」

 大沼 ・・・簡単におさらいしますと、第二次大戦中、当時日本の領土であったサハリンにかなりの数の朝鮮人が主に炭鉱労働者として渡っていったことに由来する問題です。

敗戦時には四万人程度の朝鮮人がいただろうと言われていました。日本人は戦後、米ソ引き揚げ協定で日本に引き揚げるのですが、日本人と同じく大日本帝国臣民としてサハリンに渡った朝鮮人は、日本の敗戦後、日本人ではないということで彼の地に残された。朝鮮人の夫と結婚していた日本人妻、その家族も残された。前に議論したように「戸籍」で線引きが行われたためです。

『戦後責任』p.143

本岡昭次 「私の発言から発展した」 — 2018年3月10日

本岡昭次 「私の発言から発展した」

はじめに

 兵庫県朝鮮人強制連行真相調査団が結成されたのは一九九一年七月九日のことである。
あれからわずか二年にして調査の記録をまとめることができたのは、調査活動に積極的に
関わってきたメンバーの活動と、それを支援して快く聞き取りや現地調査に応じて下さっ
た体験者の協力の賜物である。
 兵庫県調査団は、二万余人の被強制連行者の名簿公開を皮切りにして調査活動を開始し、
調査団メンバーの精力的な活動によって新たに学籍簿、寄留簿の発見や無縁仏の所在確認、
「徴用」工の給与明細書の発見など、実態解明への資料発見があいついだ。
 国会で初めて「強制連行」問題が取り上げられたのは一九九〇年六月六日の参議院予算
委員会であった。このとき質問に立った私は、朝鮮人強制連行問題と関連してその一形態
でもある「従軍慰安婦」問題に触れて質問したが、政府側は「民間業者が、軍とともに連
れ歩いている……。調査して結果を出すことは……できかねる……」と答弁し、これが、
「慰安婦」問題を国際問題化させる発端となったのである。この国会での質疑応答を境に
南北朝鮮から元「慰安婦」の女性たちなどの告発があいつぎ、それが「慰安婦」問題を国
連の場に持ちこむところまで発展していったのである。

 国連では、NGO(非政府機関)であるIED(国際教育開発)が、昨年二月の人権委
員会にこの問題を提起した。次いで、五月の国連人権小委員会現代奴隷制作業部会での討
議を経て、八月の人権小委員会では「従軍慰安婦」問題が正式議題となった。この人権小
委員会では朝鮮人強制連行真相調査団と韓国挺身隊問題対策協議会の代表が日本の朝鮮支
配による強制連行、「慰安婦」問題を南北共通の課題としてとらえ、国際的支援を訴えた。
 以降、この問題に対する論議が幅広く、継続的になされ、今年五月の国連人権小委員会
現代奴隷制作業部会では、「慰安婦」問題ばかりか強制労働問題も取り上げていくことに
なった。また、六月にウィーンで開催された世界人権会議の「ウィーン宣言」の採択にあ
たっては、日本政府は「国連は戦前の問題を取り扱う根拠を有しない」と主張したが、各
国の強い反対にあい、最終的には「すべての人権侵害を扱う」として採択された。
 この結果、八月の人権小委員会では、国連史上初の日本に対する決議がなされた。
 同小委員会のリンダーチャベス委員(米国)を特別報告者に任命し、「慰安婦」、強制連
行問題の「事実、法的分析、結論及び勧告」の四つの側面から一九九四年(第一回)、一
九九五年(最終)の同小委員会で報告を提出することを決議した。
 このことは、日本政府の「二国間条約等で決着ずみ」「国連で扱うべき問題ではない」
としていた論拠が国際的には通用しないことを示している。

 一方今年の二月にはじまった第四九会期国連人権委員会では、オランダのNGOである
IFOR(国際和解団体)が、日本の朝鮮支配の根源となった一九〇五年の「韓国保護条
約」(第二次日韓協約)について、すでに一九六三年の国連国際法委員会において、効力
を発生しなかった条約の一つであることが確認されていたことを明らかにした。
 私は、今年の三月二十三日の国会参議院予算委員会で、先のIFORが「一九〇五年条
約が効力を発生していなかった」として文書提出したことをふまえて政府の見解を質した。
 私かその場で問題にしたかったことは、日本政府が主張する、朝鮮植民地支配は「有
効」「合法」であるから、朝鮮人強制連行、「慰安婦」問題もすべては「適法」であり、し
たがって「補償の義務はない」という誤った姿勢についてであった。
 日本の朝鮮支配合法化の根源となった一九〇五年の「韓国保護条約」は、実際には朝鮮
の外交権を奪う条約であった。この条約はこれまで、当時の大韓帝国皇帝高宗が締結を拒
否したので、日本側が武力で強制締結させたとされてきた。ところが昨年の五月、ソウル
大の奎章閣から発見された大韓帝国側条約原本によれば、同条約には、条約締結の必要条
件である最高権力者としての高宗皇帝の同意がなく、署名、捺印もない上に、調印した外
部大臣への委任状すらなかったことが明らかになった。以来、南北の歴史学者によってこ
の条約が正式に締結されていないばかりか、当時の国際慣習法に照らしても効力を発生さ
せていなかったとする主張が展開されている。
 これが事実であったとすれば、日本政府の言う朝鮮人強制連行、「慰安婦」問題は「適
法」であったとする論理が根本から崩されることになるのである。
 また、高宗がこの条約の無効を一貫して訴えていたことは、パークでおこなわれた第二
回平和会議への密使の派遣と、『ロンドンートリヴューン』紙に掲載された密使の勅書か
らも明らかになっている。
 以上、国連での強制連行、「慰安婦」問題の対応と一九〇五年「韓国保護条約」の問題
点を概略した。なぜならば、これが本書で述べる兵庫県下での朝鮮人強制連行問題の根源、
基本的視点であり国連をはじめ世界の世論だからである。

 私は、昨年と今年八月の国連人権小委員会に参加し、各国政府委員と世界の法律学者の
意見とNGO関係者、被害者の発言を聞き、日本の植民地支配、戦争責任をどう取ればよ
いのかを深く考えた。問題の所在を明確にし、もっとも客観的で現実的な方向は国際法を
尊重し国連を軸に解決する道である。これは、国連決議を尊重するばかりか新たな国際貢
献となり、日本人自身のためにも必要なことと言えるであろう。
 まず私たちがすべきことは、過去の歴史の真実を明らかにし、それを真摯に受けとめる
ことである。今回の国連決議でも解決策の第一歩が「事実」すなわち真相究明である。
 本書が、強制連行、「慰安婦」問題を正しくとらえるための一助となれば幸いである。
            一九九三年九月
                  兵庫県朝鮮人強制連行真相調査団日本人側団長
                                   本岡 昭次

『朝鮮人強制連行調査の記録 兵庫編』
朝鮮人強制連行真相調査団 編著 柏書房 p.3~p.5