在宅起訴された慰安婦本著者「考え受け入れられず残念」
ソウル=牧野愛博2015年11月20日

韓国の朴裕河(パクユハ)・世宗(セジョン)大学教授が旧日本軍の慰安婦問題の再検証を試みた著書「帝国の慰安婦」をめぐり、ソウル東部地方検察庁は18日、朴教授を元慰安婦に対する名誉毀損(きそん)罪で在宅起訴した。

同書は朝鮮人慰安婦の背景として、帝国と植民地の関係を提起。日本の戦争に伴って、貧しく権利の保護も不十分な植民地の朝鮮人女性が慰安婦として送り込まれた構図があるとした。そのうえで、慰安婦の多くは、だまされたり、身売りされたりして集められたとみられると指摘。「性奴隷」「売春婦」といった対立する主張がある実態について、元慰安婦らの証言をもとに境遇は多様であったとした。

検察は、慰安婦について、日本国と日本軍によって強制動員され、「性奴隷」と変わらない被害者だったと認められるとした。根拠として、1993年の河野官房長官談話や国連の報告書などを挙げた。

そのうえで、慰安婦が「売春」の枠内の女性であり、「愛国心」を持って日本兵を慰安したとする表現や、「慰安婦たちの『強制連行』が少なくとも朝鮮の領土では、公的には日本軍によるものではなかった」との記述について、「虚偽の事実」を掲載したと判断。元慰安婦の名誉を傷つけ、学問の自由を逸脱したとみなした。

同書は2013年夏に出版された。元慰安婦らは出版差し止めの仮処分を請求。今年2月のソウル東部地裁決定に従い、一部を削除した修正版が韓国で出版された。元慰安婦らは昨年6月、名誉毀損だとして朴教授を刑事告訴していた。

日本版は昨年11月、朝日新聞出版から刊行された。慰安婦問題の再検証で両国民の理解を深めるという趣旨は同じだが、日本語での書き下ろしで、構成や表現は韓国版と同一ではない。今年10月、第15回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞の文化貢献部門大賞と、アジア・太平洋賞(毎日新聞社、アジア調査会主催)の特別賞に、それぞれ選ばれた。

朴教授らによれば、検察は当事者同士の話し合いによる解決を提案。元慰安婦らは話し合いに応じる条件として、①朴教授による謝罪②韓国版の再修正③日本を含む海外版の修正――を要求。10月までに話し合いは不成立に終わった。

朴教授は日韓の歴史問題を扱った「和解のために」で08年に大佛次郎論壇賞を受賞している。慰安婦問題については、「本人の意思に反して慰安所に連れて行かれ、痛ましい経験をした慰安婦に対して、日本は責任を免れない」とも主張してきた。

朴教授は19日、「1年間以上、本をめぐって様々な人々と議論してきた。植民地時代の解釈を巡る戦いだった。私の考えが受け入れられず、大変残念だが、起訴によって、私の主張が広く知られる機会にもなった」と語った。そのうえで、本の出版を続け、「今後も、日本の植民地時代への考え方について根本的な議論を続けていきたい」と話し、慰安婦問題を含めた歴史認識の議論を続けていく考えを示した。(ソウル=牧野愛博)

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